高圧酸素療法(HBOT)はアンチエイジングに使えるのか
テロメアを伸ばし老化細胞を減らす、という報道で話題になった高圧酸素療法(HBOT)。血液細胞での2020年の試験と、実際に皮膚を生検した2021年の試験、両方の具体的な数値を整理する。
この記事の要点
- ●2020年発表の臨床試験(35人、対照群なし)で、60回のHBOTセッション後、複数の免疫細胞のテロメア長が20%以上増加したと報告されている。
- ●2021年には、実際に皮膚を生検した別の試験も発表され、13人の男性でコラーゲン密度の有意な増加、皮膚組織中の老化細胞の有意な減少が組織学的に確認されている。
- ●『テロメアが伸びた』という報道は話題になったが、これが実際の老化速度や寿命に与える影響を検証した研究ではない。
30秒で分かる結論
この記事の位置づけ
「高圧酸素療法で老化が止まる」という趣旨の報道が2020年に話題になりました。この記事は、その根拠となった実際の臨床試験が何を示し、何を示していないのかを整理します。
分かっていること:小規模試験でテロメア長の増加と老化細胞の減少が報告されている
結論から言うと、64歳以上の健康な成人35人を対象にした2020年の前向き臨床試験で、60回の高圧酸素セッション後、複数の免疫細胞でテロメア長が有意に増加したことが報告されています。
要点:64歳以上の健康な成人35人を対象にした2020年の前向き臨床試験で、60回の高圧酸素セッション後、複数の免疫細胞でテロメア長が有意に増加したことが報告されています。
HBOT前後のテロメア長の変化を示した図です(Hachmo, Hadanny et al., Aging, 2020, CC BY)。ヘルパーT細胞・細胞傷害性T細胞・ナチュラルキラー細胞・B細胞のテロメア長が、測定時点によって20〜38%程度増加したことが示されています。特にB細胞での増加が最も大きく、25.68〜37.63%とされています。同じ試験で、老化したヘルパーT細胞が37.30%、老化した細胞傷害性T細胞が10.96%減少したことも報告されています。
この血液細胞での結果を受けて、2021年には実際に皮膚を生検(組織採取)して確かめる別の試験が発表されました。健康な高齢者70人のコホートのうち、皮膚生検に同意した13人の男性(平均68.07±2.5歳)を対象に、3ヶ月間の無介入期間(対照期間)の後、3ヶ月間の毎日のHBOTセッションを行い、施術前後で皮膚組織を比較しています。結果、コラーゲン密度が有意に増加(P<0.001)、弾性線維(エラスチン)の長さが有意に増加(P<0.0001)、血管の数が有意に増加(P=0.02)した一方、線維の断片化は有意に減少(P=0.012)、組織中の老化細胞も有意に減少(P=0.03)しました。著者らは「ヒトにおいて初めて、HBOTが皮膚老化の病態生理を有意に修飾しうることを示した」と結論づけています。
まだ確定していないこと:いずれも小規模試験の結果であり、対照群がない
結論から言うと、血液細胞の試験(35人)・皮膚生検の試験(13人)のいずれも小規模で、プラセボ対照群が設定されていないため、結果の解釈には注意が必要です。
要点:血液細胞の試験(35人)・皮膚生検の試験(13人)のいずれも小規模で、プラセボ対照群が設定されていないため、結果の解釈には注意が必要です。
対照群がない試験では、時間経過や測定自体の影響(プラセボ効果を含む)を完全には排除できません。皮膚生検の試験は「3ヶ月間の無介入期間」を対照として設けている点でやや工夫されていますが、これも同一被験者内の前後比較であり、独立したプラセボ群と比較したものではありません。また、これらの結果を報告した研究チームは複数の関連論文を発表していますが、独立した別の研究チームによる大規模な追試は、編集部が確認した範囲ではまだ十分に蓄積されていません。
分かっていないこと:テロメア・老化細胞の変化が、実際の健康アウトカムにつながるか
結論から言うと、テロメア長の増加や老化細胞の減少といった生物学的指標の変化が、実際の疾病予防や寿命延長につながるかどうかは、この試験だけでは分かりません。
要点:テロメア長の増加や老化細胞の減少といった生物学的指標の変化が、実際の疾病予防や寿命延長につながるかどうかは、この試験だけでは分かりません。
テロメア長や老化細胞の割合は「老化のバイオマーカー」として研究されていますが、これらの指標を変化させることが、実際の健康アウトカム(病気の予防、寿命の延長)に直結するとは限りません。本メディアの生物学的年齢検査に関する記事でも整理した通り、単一の測定結果だけで判断するのはリスクがあります。
この記事を読んだあなたが次にできること
現時点でより強いエビデンスがある代替・比較対象
- ›テロメアや老化細胞への影響が気になるなら、運動習慣などより多くの研究で健康アウトカムとの関連が確認されている介入から優先して検討する方が合理的。
検討する場合に医師・クリニックへ確認すべきこと
- ›紹介されている効果は、この単一の小規模試験(対照群なし)に基づくものかどうかを確認する。
- ›抗老化目的での長期反復利用について、安全性データが十分にあるか確認する。
- ›閉所恐怖症や肺疾患など、HBOT自体の一般的な禁忌に該当しないか確認する。
エビデンスが固まるまでの見通し
対照群を設定した大規模な追試が行われれば、より確度の高い評価ができるようになる。現時点でそうした大規模試験の計画は、編集部が確認した範囲では見当たらない。
参考文献
- Hachmo, Hadanny et al. Hyperbaric oxygen therapy increases telomere length and decreases immunosenescence in isolated blood cells: a prospective trial. Aging, 2020. PMC7746357
- The effect of hyperbaric oxygen therapy on the pathophysiology of skin aging: a prospective clinical trial. 2021. PMC8660605
よくある質問
Q.高圧酸素療法(HBOT)で本当にテロメアが伸びるのですか?+
A.2020年に発表された臨床試験では、60回のHBOTセッションを受けた64歳以上の健康な成人35人で、複数の免疫細胞のテロメア長が20%以上増加したと報告されています。ただしこれは35人という小規模な単一施設の試験であり、対照群(プラセボ群)は設定されていません。
Q.老化細胞(老化した機能不全の細胞)も減るのですか?+
A.血液細胞を調べた2020年の試験では、老化したTヘルパー細胞が37.30%、老化した細胞傷害性T細胞が10.96%減少したと報告されています。さらに2021年には、実際に皮膚を生検(組織採取)した別の試験も発表され、70人中13人の男性(平均68歳)で、コラーゲン密度の有意な増加(p<0.001)、皮膚の老化細胞の有意な減少(p=0.03)が確認されています。
Q.HBOTは誰でも安全に受けられますか?+
A.本記事で扱った試験自体は安全性上の重大な問題は報告していませんが、高圧酸素療法には気圧外傷や酸素中毒などの一般的なリスクがあり、閉所恐怖症や特定の肺疾患がある人には注意が必要です。抗老化目的での長期反復使用の安全性データは、まだ限られています。